くらし 【特集】もし○○○○がなくなったら(1)

右のイラスト(本紙PDF版3ページ参照)の中には今の暮らしにある「何か」がなくなっています。今回は、移動手段の一つ『公共交通』について考えます。
公共交通がなくなったら、将来のあなたは大丈夫ですか。

最近、公共交通機関を使って移動をしましたか。バスや鉄道は、出発時刻に合わせて行動する必要があり、都合の良い便がない、バス停までが遠いなど、不便に感じる人は少なくないと思います。

■公共交通は不便ですか
市が令和4年度に行った市民意識調査で、「公共交通機関を使って移動するときに不便を感じることがありますか」という問いがあります。不便だと『感じる』と回答した割合は38.5%、『わからない』という回答は35.0%でした。(グラフ1)
一方、県内の保有自動車(乗用車)数は年々上昇傾向にあり、多くの人が自家用車を使って移動しています。
では、後期高齢者になって免許を返納した後や、けがで車の運転ができなくなったとき、身近な公共交通がなくなっていたら、どうやって移動すればよいのでしょう。

■地域公共交通の今
「九州管内における乗り合いバスの路線距離は、平成29年度をピークに減少傾向にあります。皆さんの周りでも減便・廃線になった路線があるのではないでしょうか」と話すのは、九州運輸局鹿児島運輸支局で首席運輸企画専門官を務める榊(さかき)登志幸さん(43)です。
バスやタクシーなどの交通サービスは、長期的に利用者が減少していた中、新型コロナウイルスの影響で利用者減少に拍車がかかり、交通事業者の赤字は拡大しています。「利用者の減少に加え、運転者も長期的に減少傾向にあったところに、コロナ禍で離職者がさらに増加。行き着く先は減便・廃線でした。現在は、コロナ後の移動需要の回復やインバウンドの急増があり、需要はあるものの供給が追い付いていない状態です」と榊さんは眉をひそめます。(グラフ2・3)

■「今」乗るしかない
運転者不足や移動手段不足を解消するため、タクシー事業の規制緩和や公共/日本版ライドシェアの活用が図られています。「二種免許の受験資格の見直しや運賃改定の迅速化、交通空白の解消に向けて公共/日本版ライドシェアの導入も進めています。しかし、ライドシェアはあくまでも鉄道・バス・タクシーなどのサービスを補うもの。今ある公共交通が一度無くなってしまったら、なかなか元には戻せないし、他の手段で補える保証もありません。利便性という点において、自家用車に勝てるものはないでしょう。ですが、多少不便でも未来に必要な〝公共〟交通手段を残すためには、『今』乗るしかない。毎日でなくとも月に1回、週に1回と使う人が増えたら、公共交通は生き続けると思います」

▽グラフ1)市民意識調査
(問)公共交通機関を使って移動するときに不便を感じることがありますか

▽グラフ2)九州管内の公共交通利用状況の推移

▽グラフ3)九州管内の乗り合いバス・法人タクシー運転者数の推移

[INTERVIEW]
■事故のリスクを減らすために
今田幸三さん(85)
国分在住運転免許証を返納して3年がたちました。きっかけになったのは、娘から「80歳を過ぎたら危ないから車の運転はしないでほしい」と言われたこと。高齢者の運転による悲しい事故のニュースを見聞きしたこともあり、車を手放し、免許証を返納しました。返納後、移動するのに利用しているのが、タクシーときりしまMワゴンです。娘からインターネットを使った買い物の仕方を教わりましたが、自分の目で見て買い物する方が楽しいですね。確かに不便にはなりましたが、自分が事故の加害者になる方が怖い。免許を返納しても暮らしやすい環境づくりが、さらに進むとうれしいです。