くらし [巻頭特集]国際交流2.0への発展(3)

■フルーツや人的交流で強まるベトナムとの結び付き in Vietnam
山梨県とベトナムとの関係が、大きく広がりつつあります。
農産物を通じた絆、高校生の国際交流、外国人労働者とその家族への支援──。
実りある交流の先に見えてくるのは、共に未来を築く関係です。

▽ベトナムの特徴
・安定的な経済成長
・豊富な若年労働者
・50年以上の日本との外交関係
・豊かな食文化

◇フルーツと高校生がつないだ友好関係
たわわに実ったシャインマスカットの房を手に、その甘さに頬を緩めたのは、遠くベトナムから山梨県を訪れたクアンチ省(旧クアンビン省)の訪問団です。
2023年、山梨県はベトナム中部に位置するクアンチ省と姉妹友好県省を締結。翌24年には北部のラオカイ省(旧イエンバイ省)とも国際交流覚書を交わし、現在は南部のタイニン省(旧ロンアン省)とも新たな関係構築が進行中です。北・中・南、それぞれの地域と結び付けば、今後ベトナムとの交流がより進んでいくことが期待できます。
こうした外交的な動きを支えるのは、「農産物」と「人」という、山梨らしい二つの軸です。
2024年2月、山梨県内の高校生20人がクアンチ省を訪問し、現地のヴォーグエンザップ高校の生徒と交流しました。英語を介して互いの文化を紹介し合い、参加者の一人は「SNSを通じて、いまも連絡を取り合っている」と話します。
この訪問は、2023年5月に長崎幸太郎知事がベトナムを訪問した際の合意がきっかけで実現しました。このとき、現地では農業、人材交流、エネルギー分野での連携について協議されました。
同年9月には、クアンチ省の訪問団が甲州市のぶどう農園や、甲府市・米倉山の水素エネルギー研究施設「次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ(通称・ネスラド)」を視察。クアンチ省は、カーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーの開発分野で風力発電に力を入れているため、余った電力の活用に向け、山梨県が誇るパワー・ツー・ガス(P2G)システム(詳細は8ページ)に強い興味を示しました。

◇家族も支える新制度
交流をもう一歩先へ進めるのが、働く人々同士の結び付きです。現在、山梨県内には4千人を超えるベトナム人が在住しており、これは山梨県内の外国人労働者の約3割を占めます。
県内でベトナム人スタッフを雇用している企業からは「日本語の勉強に熱心で勤勉」「家族思い」といった好意的な意見が多く聞かれます。そんな彼らの就労を支える新たな制度「外国人労働者家族向け医療傷害保険制度」が2024年6月から始まりました。
この制度は、県内で働くベトナム人が、母国に残る家族の医療を支えるための民間保険サービス(提供・東京海上ベトナム)です。具体的には、ベトナム人従業員が支払った保険料(5〜59歳の家族の場合、1人当たり年額2万6千円程度)の4分の3以上を企業が助成した場合、県がその2分の1に相当する額を雇用企業への支援として補助するものです。「制度のおかげで、離れていても家族を守れる」と県内で働くベトナム人から喜びの声が届いています。
2024年1月には、「山梨県ベトナム親善交流協会」が発足。協会に約50の企業・団体が参加し、民間企業や団体のネットワークも広がっています。
「第2のふるさと」として山梨が選ばれ、その結果、地域経済の活性化と多文化共生社会の実現につながっていく──山梨が目指す「開(かい)の国」がここにあります。

◇Message
ファム・クアン・ヒエウ駐日ベトナム大使からのメッセージ

私は、ベトナムと山梨県の関係が、「双方向」・「多層的」・「持続的」な協力の段階に進むことを期待しています。「双方向」は人と企業の往来による学び・経済交流・文化交流を指し、「多層的」は行政から住民まで幅広い交流を意味し、「持続的」は信頼と利益共有に基づく長期的発展を目指すことです。
現在、山梨県には約4600人のベトナム人が暮らしており、これは県内最大の外国人コミュニティであり、両国の友好の生きた架け橋です。私は、常にベトナム人コミュニティへの関心と支援を寄せてくださっている山梨県の行政と県民の皆様に、心より感謝申し上げます。