くらし 特集(2) 野生動物から農作物を守れ!(1)

■急務 野生動物から農作物を守れ!
農作物に大きな影響を与える、シカやイノシシなどによる獣害。長年有害鳥獣の捕獲に協力いただいてきた猟友会は、会員の減少やハンターの高齢化などの課題を抱えています。野生動物による被害を減らしていくためには、「捕獲」だけでなく、地域ぐるみで獣害対策に取り組んでいく必要があります。

◇有害鳥獣による被害は農業の大きな課題
市内の令和5年度の有害鳥獣による被害額は約987万円。特に被害が大きいのが稲で、被害額の60%を占めています。
広域的な防護柵の整備や、猟友会による有害捕獲活動などによって、被害額はわずかに減少傾向にありますが、獣害に悩む農家は今も多いのが現状です。手間暇をかけた農作物が被害を受けることで営農意欲を削がれ、農業をやめてしまう人もいます。「食」を支える農業がこれ以上衰退しないためにも、獣害対策は喫緊の課題なのです。

◇有害鳥獣の種類によって被害や対策方法はさまざま
市内で特に被害が大きいのは、シカやイノシシによる被害です。
シカはほぼ全ての植物を食べてしまうため、収穫後に残った葉や野菜くず、樹皮などの植物全てがシカを寄せつける原因になります。高い跳躍力を持ち、地面と柵との隙間から潜り込んで侵入することも多いため、侵入防止柵を1・8m以上の高さにするなどの対策が必要です。
イノシシは農作物を食べるだけでなく、地面を掘り返して田畑を荒らすやっかい者。鼻で約70kgを持ち上げることができるため、柵が破られないように注意が必要です。イノシシは警戒心が強く臆病な性格のため、周辺の草を刈って隠れ場所をなくすことも効果的です。
動物によって被害状況や対策方法はさまざま。動物に合わせた対策とともに、そもそも動物を農地に寄りつかせないことが重要です。

◇市内の動物別農作物被害額の割合
・シカ48%
・イノシシ40%
・サル4%
・その他8%
(令和5年度)

■地域の要望を受けて猟友会が協力 有害鳥獣捕獲活動
獣害を防ぐためには、田畑を柵で囲うなど、個々の農家による対策が重要ですが、繁殖力の高い野生動物の個体数を調整することも必要です。そのため、名張市猟友会は、市からの委託などにより有害鳥獣捕獲活動を行っています。

◇ハンターが自主的に実施
緊急捕獲活動
・4月~10月に実施(有害捕獲活動期間)
市から「有害鳥獣捕獲等許可証」の交付を受けたハンターが、銃器やわなでシカ・イノシシを捕獲した場合に、頭数に応じて捕獲活動経費を支払います。

有害鳥獣捕獲には、狩猟免許の他に、市の有害鳥獣捕獲等許可証が必要です。

◇要望を受けた地域で実施
有害鳥獣共同捕獲
・4月~10月の日曜日に実施(7・8月は除く)
あらかじめ区・自治会から駆除の要望を受けた地域で、「巻狩り」という狩猟方法を用いてシカ・イノシシの追い払いと捕獲を行っています。

要望を受けた地域の中から、安全確保や獲物の状況などを複合的に判断して実施場所を決定します。回数も限られているため、全ての地域で実施できるわけではありません。

■知ってる??巻狩り
シカやイノシシなどの大型鳥獣を捕獲する際に用いられる狩猟方法。「勢子(せこ)」(獲物を追い込む役割の猟師)が猟犬を使って獲物を追い込み、獲物の逃げ道に待機している「マチ」(獲物を仕留める役割の猟師)が銃器で仕留めます。
通常は10人程度で行われ、日頃からの訓練や猟場の知識、経験が必要。中でも、猟師と猟犬とのチームワークが特に重要です。

■獣害対策 3本の柱
▽1 近づけない
野生動物が好むのは、「安全」で「エサがある」場所。農地への被害を減らすためには、そもそも野生動物が寄りつかない環境づくりが重要です。

▽2 いれない
野生動物が侵入できないように、侵入防止柵でしっかり農地を囲いましょう。人里を怖い場所だと覚えさせるため、集落全体での継続的な追い払いも有効です。

▽3 増やさない
増えすぎた野生動物の数を減らしたり、獣害をもたらした加害鳥獣を捕獲することも獣害対策の要。有害鳥獣の捕獲には狩猟免許などが必要なので、ハンター養成が必須です。

◇名張市・伊賀市に、クマアラート(注意報)発表中
・8月4日まで(6月25日現在)
・6月に3件の目撃あり

■地域で有害鳥獣捕獲の担い手育成を!
◇猟友会の協力で成り立つ有害鳥獣捕獲活動
動物は繁殖力が高いので、被害を食い止めていくためには、捕獲による個体数の調整が不可欠。昨年度の「有害鳥獣共同捕獲」と「緊急捕獲活動」では、合わせて527頭のシカやイノシシが捕獲されました。獣害対策に欠かせない、有害鳥獣の捕獲活動を担っているのが、名張市猟友会の皆さんです。
ただし、猟友会はあくまで狩猟愛好家の集まりであって、有害鳥獣駆除を行うための団体ではありません。野生鳥獣の捕獲には狩猟免許や狩猟者登録が必要なため、それらを持つ猟友会のハンターに、個々のボランティア精神で協力いただいています。

◇捕獲をできるのはハンターのみ――高齢化が課題に
現在、市の有害鳥獣捕獲活動で大きな役割を果たしている猟友会では、会員数の減少と高齢化が課題となっています。多い時には約250人いたとされる会員も、現在は約100人まで減少。さらに、銃猟による「有害鳥獣共同捕獲」に協力できる人はその半数以下です。狩猟が生業ではなく、可能な範囲で協力いただいているため、駆除に対する要望全てに対応することができません。
ハンターの高齢化も深刻で、平成15年度は9%だった70歳以上の会員の割合は、昨年度には33%に。現役世代のハンターは仕事や子育てなどで忙しく、有害鳥獣の捕獲への協力が難しいのが現状です。そのため、「有害鳥獣共同捕獲」参加者の平均年齢は、毎回70歳前後。地域ぐるみでハンターを育成するなど、有害鳥獣捕獲の担い手育成が必要です。

◇名張市猟友会 70歳以上の会員の割合