くらし 〈連載〉誠実・信頼・希望 〔加藤 憲一〕

◆小田原が放ちうる「光」

梅、桜と、春を告げる花々が咲き移ろい、はや4月。今年も本格的な観光シーズンがスタートしています。さまざまな施設の整備、各方面へのシティプロモーション、受け入れ体制の充実など、これまでの官民での各種取り組みが実を結びつつあり、本市の入込観光客数は800万人を優に超え、目標である年間1千万人への到達も近いと感じています。

「観光」は、小田原の経済振興にとって最も効果を生みやすい分野といえます。定住人口増加や企業誘致による経済効果の獲得には一定の時間が必要ですが、小田原が既に有している多彩な地域資源を素材に「人の力」で知恵と工夫を凝らし「おもてなし」を添え、各地から多くの人たちを惹(ひ)き付け、消費行動につなげることで、短期的に経済振興を実現できるからです。

本市ではこれからさらなる観光振興に取り組んでいきますが、大切なのは「それをどう進めていくか」であります。「観光」は「光を観(み)る」行動であり「観るべき光」がこの小田原の中にたくさん存在することが望まれます。では「光」とは何でしょうか。

貴重な名所旧跡、優れた自然景観、品ぞろえ豊富な土産物、多彩な飲食メニューなど、いわゆる観光地としての「素材」はもちろん不可欠。加えて私は、それらの存立を可能にしている、小田原の農林水産業、各種ものづくり産業、そこで培われた「なりわい」文化、市民の生活文化、後背に展開する豊かな自然といった、いわば「光」のもとになる営みや存在が健やかであることが、極めて重要であると考えています。そして、それらの「光」を担っている生産者、働き手、作り手、売り手、守り手、そして市井(しせい)の人々が果たす役割が、実は一番大切なのではないかと感じています。

暮らしの近くに歴史遺産があり、自然の恵みを享受し、手作りのなりわいを受け継ぎ、地域に根差した祭礼や文化を大切にし、家族のように支え合うコミュニティーがある。豊かさや幸せがまちから感じられる。そうした中で磨かれた小田原ならではの、食や暮らし方、まち並みや風景、文化や芸能などこそ、これからの旅人が最も観たい「光」ではないかと私は考えます。

その担い手は観光事業関係者だけでなく、一人一人の市民なのです。小田原全体で、そうした「観光」を育てていきたいものです。